「クララとお日さま」(カズオ・イシグロ著)を読了した。
体の調子悪いのようやく落ち着いてきたかなといった感じ。まぁ、完全復帰というわけじゃないけど、ふつーに週二回で筋トレもできてるし、今週の土日にでもランニングができたら週のノルマは完璧といった感じ。ウクライナの戦争は相変わらずで精神に負荷を掛けてくるけど、NHKのラジオニュースだけ聞くようにしてたらストレスは何とかなった。
こういう世間の状態が大混乱に陥ってる時こそ、書籍に救いを求めるのが良いであろう。ここん所はネットニュースの消費量を抑えて、kindleで本を読む量を増やしている。最近は、「精神科医は腹の底で何を考えているか」(春日武彦著)なる新書も興味深く読めたではあるが、この本はいまいち自分の立場を脅かされてるようでひやひやする。
この本も読了したからなにか感想文を書こうかな? 最近は本を読んでも読書メモをつけない事が多くなってるからよくない事だ。本を読了したならばブログで感想文を一本ぐらい書くのは、記憶に知識も定着するし、あとから内容を振り返るときに便利でもあるからちゃんと習慣化しておきたいところだ。
今日感想を書くのはこの本じゃないんだけどね。Audibleのオーディオブックでカズオ・イシグロの「クララとお日さま」を読了したから、そちらの方で感想文でもしたためておこうかと思ってキーボードをタイプしている。
カズオ・イシグロの作品については「日の名残り」や「わたしを離さないで」については読了している。なんというか、人の心の細かな襞を描くのが上手い作家さんだなと思っている。「クララとお日さま」についても、一人称の小説であるけど主人公クララの心情の描写がむちゃくちゃ上手い。ラストまで読み終わると、思わずクララの誠実さや健気さにほろりと来てしまう。
物語の舞台は近未来ではあるようだが、それほどSFチックな世界ではなく、子供の知能を上げる「向上処置」と呼ばれるような技術があったり、「AF」という子供のための見守りロボットがいるぐらいである。全体的に現代とそれほど変わりがある世界ではなくて、主に物語が展開していくジョディとリックの家の周辺は田舎の牧歌的な雰囲気が残っている。
カズオ・イシグロの出自については分からないけど、序盤のお店での舞台描写などではイギリス風のおしゃれなお店の雰囲気が漂ってきてなんとなくお上品な気分になってくる。「日の名残り」でもそうだったけど、カズオ・イシグロはクラシカルな上流階級の描写が上手い。伝統と現代の文化のせめぎ合いみたいな所を描くことの作家の裏テーマとしている事も見受けられる。村上春樹のセックスと壁抜けみたいな所の主題で、カズオ・イシグロは世代間の対立とか時代の移り変わりみたいな所をテーマにしてるんじゃないかと思う。
「クララとお日さま」の舞台は近未来であるけど、メカメカしい描写が出てくるのは、クララの認知機能で心情の変化によって視界がボックスに分割されたりしてしまうところと、「肖像画」を作るために研究所っぽい描写があったくらいだ。クララはAFであるのだけど、思考についても極めて普通の人間と変わるところがない。むしろ、普通の人間よりも純粋で、ジョディを思いやる気持ちは本物で、少々世間知らずな所はあるけども、機転を利かせることもできる。
作中ではクララが太陽に対してある種の信仰のようなものを抱いているのが分かるのだけど、これはクララだけなのかそれともAFはみんな抱いている信仰なのかというのは気になった。どうやらAFは光合成のように太陽からエネルギーを得ているらしく、そのため太陽に対して敬意の念を持っているようなのである。物語の展開では他のAFと交流するのは店のシーンだけだったので、他のAFがどう考えているのか分からないけど、クララの太陽に対する信仰は多少行き過ぎたところがある。それは物語の主題と大きくかかわってくることになってくるのだけど、ネタバレなしでこの話題を語りつくすのは難しい。
この小説の楽しみ方としてはキャラ萌えで楽しむのが一番良い小説であるということだ。物語を駆動させるにはキャラクター萌えとシチュエーション萌えの転がし方があると思うのだけど、この「クララとお日さま」は天然だけどひたすら健気で頑張るクララを愛でまくる作品である。オーディオブックで聞くと、クララの声はなんかクール系のちびっこキャラみたいな声でそれで健気さが10倍増しぐらいで伝わってくる。
この本はAudibleのオーディオブックで聞くのがよい作品かもしれない。健気なロボキャラみたいなものが萌えポイントの人はどまんなかで刺さると思う。それでいてカズオ・イシグロの作風でお上品な感じにまとまっているのでお勧めです。