
「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」をみてきた。
今日は3連休の2日目。午前中は歯医者に行ってきて、午後からは単館系映画館の桜坂劇場で、「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」をみてきた。
ちょっと、この作品についてはアフターシックスジャンクション2の「宇多丸のムービー・ウォッチメン」で作品評を聞いていてすごく気になってたのである。現アメリカ47代大統領のドナルド・トランプの自叙伝などを参考にして、どんな風にしてトランプがああいう性格になったのか? というのを描いてるフィクションである。
僕はアメリカ人の性格というのはそんなに知らないのだけど、アメリカ人の中でもトランプの性格というのはかなりアレの部類なのだろう。トランプがああいう性格になるまでどのような経緯があったのかというのを事実を交えつつ物語として仕上げた作品という感じ。
しかしまー、アメリカって国はすごいなーと思ったのは、この作品が発表されたのは2024年のアメリカ大統領選ごろなんだけど、大統領候補をこんな自己愛パーソナリティ障害みたいな描写をしても大丈夫なんだな。いくら表現の自由とはいえ、これは自分がされたら相当嫌な感じの心理の掘り下げなんだけど、本当に本人はこれを気にしてないのだろうか? 案の定、トランプ支持者からは映画の公開禁止を求めて訴訟がなされてたらしいんだけど、司法の判断では問題ないということで公開されてるらしい。
そういうトランプの政治に反対してる方のリベラルの人たちが、フィクションでトランプをメチャクチャに描いて溜飲を下げるために作った作品という感じでもなかったけどね。若い頃のトランプの苦悩については相当じっくりと描かれて人間ドラマみたいになってるんだけど、兄を亡くした後で吹っ切れた後のトランプのやってることは、ほとんどサイコホラーである。
トランプにはその影響を受けた人で「ロイ・コーン」という人物がいるんだけど、訴訟に勝利するためには手段を選ばない悪徳弁護士である。これは実在の人物であるらしく、ニクソンやレーガンなどの大統領と親交が深く、財政界に食い込んで相当悪辣な手段で稼ぎまくった人物であったらしい。
作中ではロイ・コーンとトランプは師弟関係というか、親子のような関係でもある。ロイ・コーンは同性愛者でもあるらしく、若い頃のトランプと初めて会った時は、高級クラブでロイが恋人探しをしてる時にトランプに出会って惚れ込んだようなニュアンスも感じ取れる。
若い頃のトランプというのは、父親の経営してる不動産会社が黒人差別で政府から訴えられて窮地に陥っており、その解決策を探して右往左往していた。自分の足で家賃を滞納しているアパートの住人に催促も行ったりするのだけど、押しが弱くて住民に追い返されたりする。
そこんところを高級クラブでロイ・コーンとトランプは出会い、政府との裁判に勝つためにトランプは教えを乞うのだけど、その教えは3つ。
- 攻撃、攻撃、攻撃。
- 絶対に自分の非を認めるな。
- 常に勝利を主張して、負けを認めない。
気弱で女性にも袖にされていたトランプ青年は、ロイ・コーンの教えを実践することで最初の妻のイヴァナにも押せ押せで落としたりとか、事業でも強気に主張することができてホテル王として大成功を収めたりする。
しかしまー、途中からトランプはロイ・コーンがコントロールできないほどの自己中心ぶりを発揮し始める。明らかに成功しそうにない事業まで強引に押し通したりしようとして、結局、事業がうまくいかず破産寸前まで追い込まれてしまう。
史実の方では、そこからトランプはこの映画の表題にもなってる「アプレンティス(見習い)」という番組の中で社長役をやったりして人気が出始めて、そこから政治家に転身して今の大統領である。この人もアメリカンドリームを実現してる人物ではある。
この作品の中では、師弟関係や親子関係が描かれる。それはロイ・コーンとトランプの関係や、トランプとその厳格な父親との関係である。
トランプの父親というのは明らかに古いタイプの家父長制の強引なタイプで、それで家族を抑圧していた。トランプが成功したのちは認知症を患ってる父親に多額の借金を肩代わりさせようとしてたりとか、復讐のようなことをしようとしている。ロイ・コーンにしても、歪んだ人物ではあるがトランプを師匠として導こうとしていたのだが、トランプはその恩を仇で返す。
物語後半でクライマックスの後、トランプの脂肪吸引手術や髪が薄くなってるのを隠すための手術のシーンで終わるのだけど、これはおそらく彼にとって師匠の死よりもそちらの方が重要なことを象徴してるんだと思う。エイズで死にかかってるロイコーンがトランプに会いにきて、トランプがその誕生日を祝うシーンがあるんだけど、彼なりにロイを気遣ってやってるパーティなのだろうが、ロイに自分を認めさせて承認欲求を満たすためにやろうという目的の方が大きかった。
僕的な感想としては、トランプはロイ・コーンが教えたゼロサムゲームの勝ち方で、師匠や父親を超えていったけど、遠からず本人も彼らとおんなじ目に遭うということを暗に匂わせるような終わり方だなーと思った。まー、間違いなく問題作の部類であるが、僕は人間ドラマとして面白く見ることができた。