僕は統合失調症を患っているが、比較的症状は軽いらしく寛解に近いぐらいに回復している。一時期は、陽性症状で希死念慮が凄まじく閉鎖病棟に入院するに至った。退院後はリハビリの為、デイケアに通い、その後は就労移行支援施設に移って、現在に辿り着く。
この病気で失った物は多い。働き盛りの一番大切な時期に、何年もブランクが開いたことはキャリアを考えると重大な問題である。また、妄想は無いものの無気力さは未だに抜けない。毎日、事務所から帰ってきて何かやらないといけないと思いつつ、夜が訪れるまでゴロゴロとしている。認知障害も意識することは少ないが、少なからず思考に影響を与えているだろう。健康だった時期と比べると、記憶力や思考力が落ちている。統合失調症の一番問題のある症状は認知障害だと言われている。陽性症状を無治療で放置していると、脳が機能的に変質して人格崩壊を招くらしい。
精神医療は向上し続けている。統合失調症患者の3分の1は医療的にも社会的にも完全に回復し、社会復帰することができる。薬も定型抗精神薬から非定型抗精神薬へと進歩して、副作用が少なくなっている。過去には抗精神薬を飲んでいると、糖尿病を併発する事が多かったのが、今ではそんな副作用が軽減されている。医療は進歩し続けている。これから発症する若い人は何の問題もなく普通の生活に戻れるようになるかもしれない。
僕は統合失調症を患ったが、別に運命を呪ってはいない。普通の人々よりも努力しなければいけないのだなと認識した。むしろ、統合失調症に罹ることで、人生を深く見つめなおす事が出来たのではないかと思うぐらいだ。以前の僕は自己啓発に邁進して日々、効率的に仕事をこなすにはどうすればいいのか? 成功するにはどうすれば良いのか? と意識高い系の道を突っ走っていた。普通の人生のレールを外れることで見えてくる事があった。非人道なまでに効率性を押し付けてくる社会は異常であるということだ。人間の生きる本来のペースが、病気で入院することで見えてきた。人間は思考する速度で動くことはできないのだ。あくまでも身体のテンポに合わせてゆっくりとしか生きていけないのだ。
同じ病気を患っている人に言いたいことがある。回復を焦って無理に行動する必要はない。自分のテンポでゆっくりと歩めばいい。行動すべきタイミングは必ず巡ってくるはずだ。自分のペースで生きていて、チャンスを見逃さないように目配りをしていれば、よりよく生きる事はできる。病だからといって自分の気持ちから病気になってはいけない。絶望は死に至る病だ。前述したように医療も進歩し続けている。未来は希望に満ちている。誰からなんといわれようが生き抜く事がこの病気を患った人に課せられる使命である。
何を偉そうにと思うかもしれないね。観測範囲の人々はとっくに自分の生き方を確立してる人ばかりだ。ただまぁ、どん底にうずくまっている人を見かけてね、病ばかりを注視したところで得られることは何もないってことを言いたかっただけだ。この病気は受け入れて前に進むしか無い病気である。肝心なのは生き方だ。病気にかかわらず自分らしく生きる事の重要性を強調したいと思ったのさ。僕の主張はそんなところだ。