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「日本社会のしくみ」(小熊英二著)を読んだ。

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「日本社会のしくみ」(小熊英二著)を読んだ。


ここしばらくオーディオブックで読んでいた本を読了した。「日本社会のしくみ」(小熊英二著)という本だ。これは本の種類としては専門書で、日本社会の大企業の雇用慣行がどうしてこのような形で落ち着いたのか、国際情勢・歴史的経緯をまとめてある本でしたね。


こういう専門書に関しては、特に論文などで引用する必要が無ければ概要と結論だけを引っ張ってきて読めばいいだけなんだけど、オーディオブックなので結局全部読んでしまった。日本の雇用慣行がどうやって成立していったとか、アメリカやドイツでどのような雇用慣行なのかとかそういうトリビアが増えてしまいました。


日本型の雇用慣行というのは、新卒で正社員として採用してずっと企業の中でいろんな業種の仕事を経験させられながら、定年退職まで永続的に雇用し続けるという形式だけど、これは日本独特のしくみなんですね。アメリカなどの社会では仕事というのは、職種が決まってしまうといろんな企業を移動しながら給料の良い企業を探して転職しながらキャリアアップを目指すというのが普通なんです。


こういう、日本社会の雇用慣行のしくみを「メンバーシップ型」、欧米などのしくみを「ジョブ型」というのです。欧米などのジョブ型の働き方のしくみというのは、19世紀の野蛮な自由雇用制度の中で企業に労働者が搾取されない様に、労働組合のような同じ職種のギルドが活動する事で、同じ職種の人たちが集まって、働き手を必要としている企業に労働者を派遣するという感じで成長して行った雇用慣行みたいですね。


日本社会のメンバーシップ型は日本社会で労働組合と企業の労使交渉などはあったんですけど、それで年功序列による昇給を交渉で勝ち取ってきたらしいのですね。それで職種ごとには集まらずに同じ企業の中で交渉する仕組みができてしまって新卒はどの企業もそろって同じような金額の初任給というしくみになったみたいです。日本がこのようなしくみになったのは、官公庁のしくみなどをそのまま大企業が流用してきたのであり、官公庁は大日本帝国時代の軍隊のしくみを流用してこのような雇用慣行になったみたいです。


この本で面白いと思った分析は、就職氷河期時代になんで派遣社員などの非正規社員が増えていったか? みたいな分析でしたね。あの頃にリーマンショックがあったから不景気になって企業が体力がなくなったから楽に使い捨て出来る派遣などの雇用の仕方が流行した、みたいな話が通俗的には流れている感じなんですけど、それとは違って本当は大卒などの高学歴な求職者と企業の考えのミスマッチみたいなものが原因らしいですね。


追記・補足(2020/11/27 09:36:07)
リーマンショックは2008年ごろですね、就職氷河期は1998年から2002年ごろに就職活動をしているからバブル崩壊の影響です。それから後の10年ぐらいはサブプライムローンの問題もあって、継続的に就職難の時代が続いているようです。

2007年、サブプライムローン問題を引き金とする世界的金融危機リーマンショックの影響による株価の暴落、急速な円高や世界各国の景気後退により、それまで過去最高利益を出していた企業の業績が急激に悪化し始めた。この影響により、再び日本に就職氷河期が到来した。これは、前回の氷河期での有効求人倍率で記録した過去最低の0.48倍をさらに下回り、2009年7月に0.42倍を記録したことからもうかがい知れる。
この就職氷河期再来により、大卒、高卒などの新社会人の就職活動にも影響を及ぼしており、就活時期には売り手市場であった2009年春卒業予定の学生の内定が、企業の急速な業績悪化に伴い取り消されることが続出したり、2010年卒以降の大卒の就職内定率が大幅に減少し、かつての就職氷河期を下回る内定率を記録している。

就職氷河期とは 一般の人気・最新記事を集めました - はてな


追記おわり。


企業では大卒者というのは幹部候補生として扱うのが普通で、工員として現場労働をするのは中卒や高卒の社員なんである。だけど、就職氷河期の時期にちょうど教育改革で大学進学率が高くなってしまって、大卒者を入れるための役職が枯渇してしまった。本来、日本社会では大学という場所は、こういう企業の雇用活動のフィルタリングの役目をするためにちょうど良いぐらいの難易度で労働者の振るい分けをしていたのだけど、教育改革のために企業がさばききれない大量の大卒が生まれてしまったので、そのために高卒や中卒などの就職率が激減してしまった。また大量のあぶれた高学歴の労働者のために非正規雇用みたいな雇用形態ができたみたいですね。


この教育制度で大学が誰でも入れるようになってしまったというのが、世の中が学歴を重視してどこの大学を出たかによりどの大企業に入れるかの流れが決まったきっかけであり、大学によるランク付けで企業は人材の価値を識別するようになってきた。だが、日本の文化というのはこういう実際の所を教えないのでこんなミスマッチも起こる。


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日本社会では大企業に所属しながら都会で生活している人も居るが、地域社会で周りとのコミュニケーションを取りながら企業に所属しないでも生きている人たちもいる。そのどちらにも入れない人たちもいる。この本ではこのように日本で生活している人たちを「大企業型」「地元型」「残余型」と分類している。


「大企業型」は大企業に所属する事で収入や生活を守ってもらっている。都市部におおい。「地元型」は地域社会で農業や地場産業を中心にやっている。大企業ほど高額な給料が貰えるわけではないが、地域社会のネットワークに守られながら生きている。日本では「地元型」が徐々に減っているが「大企業型」は一定数で増えていない。上述した教育改革のためか、地元をでて大学進学はしたが良いが、大企業に所属できずに非正規などに落ちる「残余型」が増えているのだ。


こういう流れを政府もみすみす見逃している訳ではない。若手官僚たちがこれからの日本社会のしくみを分析した次の資料がある。


不安な国家、たちすくむ個人 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~
https://www.meti.go.jp/committee/summary/eic0009/pdf/020_02_00.pdf


雇用慣行のような仕組みを作ってるのは、大企業や行政のような組織だけではなく、個人の考え方もすべて社会に影響して生み出されたものである。80年代のバブル時期までは社会が成長していたからどうにかなってたが、今までのしくみはうまくいかなくなっている。日本がこれからどのようにグローバル化した社会で立ち回っていくかは、これからの一人一人の考え方に掛かっている。


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