超メモ帳(Web式)@復活

小説書いたり、絵を描いたり、プログラムやったりするブログ。統失プログラマ。


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『劇場』(又吉直樹)を読んだ。

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又吉直樹という作家に対して僕の評価は微妙である。『第二図書係補佐』に関しては爆笑した。卑屈な表現がうまいエッセイストだと思う。『火花』の芥川賞受賞は完全に芸能人枠なんじゃないか?と疑問視している。齋藤智裕(水嶋ヒロ)の『KAGEROU』程は酷評されていないけど、どっこいどっこいぐらいではある。いや、流石にそれは『火花』を馬鹿にしすぎな気もするな。『火花』は芸人の葛藤みたいな人間ドラマは描かれているわけだし、それなりに読み応えもあった。だけど、これが芥川賞だと言われると純粋に納得はできない。だけど『KAGEROU』も結構、ファンタジーと割り切って読んだら面白い作品ではある。『KAGEROU』の当時の宣伝の仕方を知っている人ならわかると思うが、あれを「純愛」だとか「人間の葛藤」みたいな宣伝文句を付けて大量に売りさばこうとしたから馬鹿にされたのである。その後大量にブックオフで叩き売りされてたしな。内容はかなりポエミイなファンタジーだよ。水嶋ヒロにしたってあの程度書けるのなら、商業作家で生き残るのは難しいとは思うが、芸能人の副業としてはレベルは高かった。僕も小説家ワナビだからあんまり他人の作品を悪くは言えない。


問題は『火花』だ。ドラマ化もされたしそれなりに面白いとは思うんだけどさ、あれを芥川賞という時に疑問符がつくのである。芥川賞って純文学の新人賞でしたよね?『火花』はエンタメでバットを振り抜いた作品だと思う。あれを人間の掘り下げって点で評価するのは難しくないか?舞台背景の描写で大道具とか美術の人が見え隠れする感じだよ。それはエンタメだったらそれも外連味として受け入れられるんだけど、それを純文学としてしまうとかなり厳しい。僕はそれほど純文学に詳しいというわけではないが、純文学というのは内容に合わせて文体が完成されていないと受け入れがたい。『火花』は流石に純文学ではないと思う。


別に作品としては面白いと思うんだけどねー。ダメ人間の葛藤を描かせると又吉はかなりコンスタントに面白い。なんでここまでダメ人間の心情を分かっているのかと頷いてしまう細かなディティールをぶち込んでくる。ダメ人間の描写に関しては幅広い。引きこもり系ダウナー型のダメ人間から、躁病系アッパー型ダメ人間まで細かな心情の襞まで書いてしまう。作家としての又吉直樹を評価する時に「ダメ人間の描写」という一点に関しては商業作家の中でもかなりの水準である。


でもって、「火花」は240万部の大ヒットである。まぁ芸能人が芥川賞取ったらそれぐらいは行くかなぁとちょっと冷めた感じで見ている。僕も大ヒット中に読みはしたけど多くのうるさ型の小説読みを満足させるほどの作品ではないよなぁ。だけど、大ヒット中は酷評するのもためらう感じで世間は熱狂してた。全然小説読まないうちの母親でも『火花』は読んだぐらいだもん。普段、小説を読まない層まで浸透させた点では評価できるよな。やっぱいまだTVというメディアは強いですよ。


だが、芥川賞ってのは新人賞である。又吉の商業作家としての今後を占うならば、2作目が重要になってくる。新人賞だけ輝いて埋もれていく作家なんて腐るほどいる。又吉が芸能人の副業として作家をするんじゃなく、本当の作家になりたいんであればむしろ力を入れるべきは2作目である。


そこで2作目の『劇場』、読んでみましたよ。駄作とまでは行かないけど、まぁ芸能人の副業ならこの程度かと納得できる程度のクオリティだった。


いや、不満点を挙げるならば超弩級の奴が一つある。人間を描くはずの芥川賞作家がなぜ、現代の恋人を描写する時にセックスの描写を回避する?普通、現代ニッポンの東京の若い恋人同士ならそれは避けられないシーンでしょ?恋愛小説らしいのにこの『劇場』では3行開け朝チュン程度の可愛らしいセックス描写すらない。思い合っている恋人同士が手を握る程度で恥じらうのである。いや、又吉が引いちゃって書けないのかわからないけど流石にこれは致命的だと思う。又吉が尊敬しているという太宰治の「人間失格」みたいな古い作品でもセックス描写あるのになぁ。


ほか、メタ的に演劇論を語る場面があるけど、素人相手ならともかく商業誌で書く作品で個人の感性が全てに勝るみたいな展開にしてしまうと、マジで演劇やってる連中から反感を受ける可能性が高い。後半に語られる演劇論が作品のメインみたいな所があるんだけど僕が一回しか読んでないからか分からないけど、すっぽぬけみたいな形で感傷的なクライマックスになだれ込む。結局、又吉直樹の演劇論はよく分からなかった。いや、語られてはいるんだけどエピソードの積み重ねが少ない。突然、ぽんと小説の話になって妙にメタに具体的なメールをやり取りして、他人の舞台で感動するみたいなものだと、小説的じゃない。言葉で説明しようとしちゃってる気がする。こういう心情を描写してこその背骨のある小説だと思うな。


さて、結構な酷評になった気がするな。僕はワナビなので、芸能人で芥川賞作家の又吉には忸怩たる思いがあると解釈してくれい。こういう商業作品は逆に勇気づけられるという所もある。ここまで低い志でいいのかって話だけどな。


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