「大本営参謀の情報戦記」(堀栄三著)を読んだ。
ここ最近は哲学とか歴史などのリベラルアーツの本を読むようにしているんですよ。最近、なんか意識高い系の読書傾向になりがちだったので、教養を深める読書を楽しみたいと思って色々とそれ系統の本を読んでいる。最近はこんなところかな?
で、また本を読了したので感想文でも綴っておこうとおもう。本に関しては読書メモをとるほどではないけど、読み終わった後には簡単な書評をブログに書くことにしている。こうすることで記憶に残りやすいし、後から読み返してみてどんな本だったか思い出すことが出来る。
今回読んだのは「大本営参謀の情報戦記」(堀栄三著)である。
- 作者:堀 栄三
- 発売日: 1996/05/10
- メディア: 文庫
大本営の情報参謀をやってた著者がその内部から見た太平洋戦争について語っている本である。大本営といえば大本営発表というように出鱈目な情報で国民を煽り立てて日本を戦争に追い込んだ張本人、みたいな扱いを後の歴史では受けているが、あれも日本対アメリカの諜報戦で日本が負けてしまったためにGHQから印象操作を受けてしまった結果だという。諜報戦というのは戦時中のみに行うものではなく、国の諜報機関は平和なときから有事に備えて情報を集めてこの国と戦争になったならどういう風な戦略で戦えば良いのか国家機密として考え続けてるものなのだ。例えば、アメリカには日本と国交をつないだ明治時代ぐらいの昔からどの様に日本と戦争をするのかの文書を残していたらしく、軍馬をどの様に太平洋上の諸島に上陸させるかの記述も残ってたとのことだ。
この本は軍記物の様な書かれ方をしているけど、著者の体験談から国家の運営において情報戦というのが如何に重要なのかを書かれているビジネス書としても読める。この著者の堀栄三氏は、戦時中は大本営の米国課で「マッカーサー参謀」と呼ばれた程のアメリカの軍事に精通した情報参謀だった。また、戦後は予備警察隊から自衛隊に変っていく時代にドイツ外交官付きの武官としてヨーロッパで諜報活動をしていたという根っからの「情報職人」である。
大本営といえばまぁ太平洋戦争から原爆投下という悲惨な日本敗戦をまったく避けることも出来ずに、戦略的な大敗北をしてしまった諜報機関であるが、大本営内部から戦争をみてた現場の末端はどの様にしてアメリカと戦うかという戦略をある程度、把握する事は出来ていたようだ。そもそも、アメリカと日本では物量が違いすぎて真っ向から戦争したところで勝つことは不可能だと分かっていた。また、アメリカ軍は圧倒的な航空戦略による制空権で東シナ諸島のような島嶼地域での戦闘に特化させる戦い方をしてきた、一方、日本といえば日露戦争、日中戦争から全く戦略を変えずに陸軍の歩兵の突撃攻撃を主体とした大陸型の戦法で戦おうとした。
前述したことでもあるが、パールハーバーで開戦する以前からアメリカはとっくに日本と戦争して勝つための戦略を練り上げており、むしろ物資とか外交的な情勢で日本はアメリカ開戦にするように追い込まれていたというのが事実のようである。この辺りはルース・ベネディクトの「菊と刀」あたりでも語られていることであり、太平洋戦争する前から既に日本は負けていた。
サイパンとかテニアンなどのマリワナ諸島では堀氏は実際に戦場で情報士官として戦況をみたり戦略を立てたりしてたようだが、日本軍というのは精神論で物量を押し返そうとしており、島嶼戦なのに制空権を奪われており、空爆と艦砲射撃で次々と飛行場を奪われて、飛び石のように島を取られて制空権は日本本土まで届いた。しかし、戦争末期には沖縄戦などもそうなのであるがゲリラ戦になり米軍にもかなりの被害がでるようになり、ソ連も参戦して日本を横取りしようとしてために早く日本を降伏させるために新兵器であった原子爆弾でケリを付けたようである。
大本営は戦後全責任を負わされていたが、アメリカというのは諜報戦で勝つことを徹底してた為に戦後に日本が反抗しないようにするために牙を抜く意味でやったことの様だ。太平洋戦争が始まってアメリカがすぐやったことは、日系アメリカ人の収容所への隔離であり、真っ先にスパイが活動できないように日系人を隔離した。一方、日本では日系アメリカ人を大本営でも使ってたようでありスパイに情報が抜かれていた。日本人は単一民族国家であるために見た目が同じで同じ言語を話せばまったく信用してしまうらしい。戦後にIBMから日本の企業が情報を盗もうとしたときでも大騒ぎになったようにCIAの様な諜報機関というのは強力な権力を有している。日本では自衛隊の1部門に諜報機関がある程度であり、そもそもアメリカともう一戦交えることが不可能なほどに弱体化させられている。堀氏は自衛隊でも武官として働いていたようだが、日本政府の諜報の軽視を嘆いている。
堀氏は外交官付き武官として動いていた経験で、国力が弱い小国でもウサギの耳のように諜報に長けた国が上手に立ち回る様子などを語っている。堀氏はキューバ事変やパナマ事変などでも、国際舞台で情報を収集し続けて日本に情報を送り続けていたようである。アメリカやソ連のような国に直接対抗するのは無理だけど、弱い国でも諜報を行うことで戦争が起こる前に争いを避けて勝つ国が決まってるのが情報戦の世界なのである。どこの国でも戦争になる前からどの様な戦略で戦うかは事前に計画しているものなのだ。日本はそれこそウサギの耳を持たねばならぬだが、著者によると日本国民は随分おめでたい国民性らしい。
まぁ、大本営って言われているほどアホな組織ではなかった事は分かりましたね。国家において諜報機関が如何に重要だったかが分かりました。また、この本は情報職人だった著者の一代記としても読めます。おもしろかったです。
- 作者:堀 栄三
- 発売日: 1996/05/10
- メディア: 文庫