超メモ帳(Web式)@復活

小説書いたり、絵を描いたり、プログラムやったりするブログ。統失プログラマ。


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「街とその不確かな壁」(村上春樹著)を読了した。

「街とその不確かな壁」(村上春樹著)を読了した。


GWも後半戦に入ったのかな? 皆さんはいかがお過ごしでしょうか? 僕はこのGWは非常に充実してるね。


今日はHerokuで動いてたScrapboxのprivateプロジェクトからpublicプロジェクトに公開したいファイルをコピーするプログラムを、AWSのlambdaに移植する作業を行っていた。AWSなんて全然使ったことないからさっぱりわからねーのだけど、ChatGPT君に色々と尋ねながらなんとか一日で作業を終わらせることができた。AWSでもlambdaの方は結構大きな無料枠があるからね。HerokuはOAuthを流出させたりとかセキュリティ面でも大きな課題を抱えているであるし、AWSは勉強がてら個人的なアプリはこっちで運用してみたいと思ってたのよ。最近のモダンな開発ではほとんどサーバサイドはクラウドサービスだしね。僕もオンプレだけじゃなくてAWSとかも使えるようになる必要があるだろう。


この休みでは個人的な開発も色々とやってるのだけど、作業の息抜きで読書もしていた。一月ぐらいかけてちまちまと読み進めていた村上さんの「街とその不確かな壁」も今日で読み終わった。



今回の村上さんの「壁とその不確かな壁」は不思議な作品であったな。文章表現の芳醇さとかは確かに村上さんならではだなと思ったけど、物語の筋が今までの村上作品とはまた違う流れになってたね。どこか児童文学のような雰囲気も漂っていた。僕はこの作品は好みだなと思った。


そこまで詳細に書くわけではないけど、今回のブログエントリーは「街とその不確かな壁」の感想であるのでネタバレをする可能性があります。まだ読んでる最中とかそういう人は今回のエントリーはここでUターンして読み終わった後に戻ってくることを推奨します。


ネタバレ注意は書きましたよ? まぁ、僕の理解度ではそこまで解像度の高い作品論評なんてできないだろうけど、ネタバレはもんにょりだからねぇ。せっかくの村上さんの新作なんだから自分で最後まで読んだ上で作品世界をしゃぶり尽くしたいよね。


今回の村上さんの「街とその不確かな壁」であるけど、村上さんの一連の作品で主題のように扱われている「壁抜け」がガッツリと序盤から出てくる。最初の方で壁の向こう、深い底の世界に迷い込んでしまった主人公がその後の人生を通じて向こう側と現実世界を行き来しながら自分のあり方を探るという作品なのかなと思った。


僕が村上春樹作品で一番好きなのは「ねじまき鳥クロニクル」なのであるけど、あの作品では物語全体を通じていろんな世界を彷徨した最後にクライマックスで井戸の底から向こう側のホテルの彼女の元へ辿り着くという筋なのだけど、「街とその不確かな壁」では物語の序盤からあっさりと向こう側の世界に行き着く。


しかし、この作品の向こう側の世界というのは、とらわれてしまうと簡単には抜け出せない壁に囲まれた幻想的な街だった。「ねじまき鳥クロニクル」でも向こう側というのは危険な世界であると語られてるけど、今回の主人公は物語の序盤で向こうの世界にとらわれてしまって人生の半分を棒にふる。はじめての彼女も向こう側の世界に閉じ込められて現実世界から消えてしまう。


今回のこの作品では、「壁抜け」とか向こう側の世界という村上ワールドに出現するシステムの機序がしっかりと説明されていて、村上さんの創作に対する向き合い方の変化みたいなことが感じられた。今までの村上作品ではこれらの向こう側の世界に関することというのは、仄めかしはするけど真正面から説明はしてなかったのよ。今回の「街」では序盤から最後までほとんど向こう側の世界に関する話。主人公は本体と影に分かれて向こう側と現実世界を何度も行き来する。どういう仕組みで壁抜けをするのか具体的な方法みたいなことまで語られていた。


これは僕の理解であるのだけど、向こう側の世界というのは、神話とか民話で語られるような人ならざるものたちが支配する世界だと思うのよ。ユング心理学とかでは普遍的無意識と言われるような概念で向こう側の世界を説明するけど、言葉で理解しようとすると薄っぺらくなる。


今回の村上さんの「街」で僕が不思議だなと思ったのは、どうも村上さんはそういう普遍的無意識的な概念を勉強して書いてるような形跡を感じたのね。イエローサブマリンの少年が失踪した後にその兄たちの口を通じて向こう側の世界の学問的な位置付けを語らせるシーンがあった。また、主人公と影の存在はどうしてもユング心理学のシャドウを意識させる。


なんか、僕の理解では村上さんはこういう自分の真意みたいなものをわかりやすく説明することはない人だと思ってた。どこか冷めていて、寓話でディティールを書き連ねることで、その書きたいことを浮かび上がらせるような作品を書く人であると思っていた。今回の「街」では、村上ワールドの本質的なところである壁抜けをエピソードの描写だけではなく、キャラクターに直接語らせて言葉で説明するような感じで表現していた。


村上さんも74歳ということで、そろそろ創作者としても自分の内面を語り尽くしてピリオドを打とうとしているのかなと想像した。どうも作品全体で、向こう側の世界の方の比率がものすごく多く、向こうの世界で主人公は人生を終えようとしてしまうなど、幻想に現実が侵食されていた。


この「街とその不確かな壁」の作品の終わり方は明らかに続編を意識していたね。この主人公たちの旅の終わりが気になるから僕は続編を待つことにするよ。村上春樹作品というのはいつでも読むと何かを得ることができる。今回も満足できる読書であった。

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